スペシャル対談企画第2弾 田中智子 上門知樹 矢形海優 北野颯太 桜の前線。ストライカー論

CHAPTER #3 スペシャル対談 02

桜の前線。ストライカー論

今シーズンからWEリーグに参入するセレッソ大阪ヤンマーレディース。リーグ開幕に先駆けて行われたWEリーグカップでは、3勝1分1敗、勝点10でAグループ2位。惜しくもファイナル進出を逃したが、堂々たる成績を残した。その5試合全てで、2トップでコンビを組んだのが、矢形海優と田中智子。矢形は3得点、田中も3アシストと結果を残し、チームを引っ張る原動力となった。二人は前線からの守備でも貢献。攻守にアグレッシブに戦うチームの象徴のような存在だ。その二人と、男子トップチームでコンビを組むことも多い上門知樹と北野颯太が揃い、互いのチームについて、ストライカーとして意識している動き、さらにはセレッソ大阪で叶えたい夢など、大いに語り合った。(取材日:2023年9月26日)

この組み合わせでの対談は初めてですか?

上門:矢形選手とは何度か一緒になっています。田中選手とは初対面です。

北野:僕は、お二人とも初対面ですね。

矢形・田中よろしくお願いします。

お互いのチームの試合は見ますか?

矢形:私は結構、見ています。

北野:僕もハイライトなどで見ています。

矢形選手、男子チームの印象は?

矢形:前線からの連動したプレスに迫力があって、見ていて面白いです。上門選手は仲の良い毎熊(晟矢)選手のアシストから決めているシーンもありますし、北野選手もこの前の名古屋戦(J1第25節)では、途中出場からダメ押しの3点目を決めて、試合を決定付けてくれました。

北野:矢形選手も、この間の仙台戦(WEリーグカップ第4節・マイナビ仙台レディース戦)で2ゴールを決めていましたよね?

矢形:はい(笑)。

北野:とてもいいゴールだなと思いました。

上門:頭で決めていましたよね?

矢形:はい。WEリーグでプレーするようになって、頭でのゴールも増えました。体のどこに当たっても押し込めば1点、という意識は強くなりました。

上門:僕はまだセレッソに来て頭で決めたことはないので、すごいなと思いました。

田中選手はその2得点をアシストされましたね。

田中:はい。今は矢形選手と2トップを組んでいて、自分はパスやアシストが好きです。(2点目につながった)スーッと通すパスは一番好きですね。

スタイル的にも、両チームは似ていますね。

上門:小菊(昭雄)監督のスタイルは、前からのプレスが求められていますし、そこは誰一人、手を抜きません。そこがセレッソの一番の強みですし、守備から攻撃の切り替えには手応えを感じています。一人ひとり、足元がうまいですし、色んなキャラクターの選手がいます。途中から出る選手も含め、層は厚いかなと思います。

矢形:男子と一緒で、レディースも前から奪いにいくことは大事にしています。WEリーグカップの試合では、途中出場の選手が点を取って勝つ試合もありましたし、全員が関われていることもレディースの良さだと思います。

北野:ジョーくん(上門)も言っていたように、全員が走ることは、今のチームの良さですね。

田中:レディースも運動量は武器にしていますし、前からの守備は私も心がけています。

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ハイレベルな育成環境。
「常に上を目指せるように」

上門を除く3選手はセレッソ大阪のアカデミー育ち。中1からプレーする(北野はスクールを含めると小4)セレッソアカデミーの良さ、当時の練習で現在に生かされていることは何か。また、当時J3のFC琉球でプロとなり、J2のファジアーノ岡山を経てJ1クラブに辿り着いた上門にとって、セレッソはどのように映っているのか。

北野選手、矢形選手、田中選手はセレッソのアカデミー出身です。入ったきっかけを教えていただけますか?
また、セレッソアカデミーの良さはどういうところにあると考えていますか?

矢形:入ったのは中1です。小学生時代に女子サッカーのチームに入っていて、監督からセレッソを紹介してもらい、セレクションを受けにいったことがきっかけです。3期生として入りました。当初は138cmと身長が小さかったので、中学時代は苦しい時期も長かったですが、中3の終わり頃から試合に出場する機会も増えて、サッカーの楽しさを知りました。

田中:私も中1から入りました。きっかけは、友達に誘われて、セレクションを受けにいったことです。最初はしんどかったですが、すぐに楽しくなりました。

北野:僕もジュニアユースに入った中1の頃はすごく小さかったのですが、その時のコーチから「小さかったら技術を身に付ければいい」という指導を受けて、それが今につながっています。セレッソのアカデミーは環境がいいです。素晴らしい指導者が多いですし、切磋琢磨し合える仲間もいる。育成に力を入れてくれているクラブなので、セレッソに入って良かったと思っています。

矢形:アカデミー時代は、どのチームよりも練習で走っていたと思います。フィジカルをしっかりと作ったことが、前線からのプレスなどの今のスタイルにもつながっていると思うので、あの頃、走って良かったなと(笑)。北野選手も言ったように、セレッソのアカデミーは環境に恵まれています。女子サッカーで、天然芝のグラウンドでプレーできるところはあまりないと思うので、本当に感謝しています。

北野:高1の頃は、僕もひたすら走っていた記憶しかないですね(苦笑)。

田中:アカデミーの良さは二人が言った通りですが、他にも、セレッソに入って指導者の方や先輩の選手と接する中で、敬語などの人としての振る舞いも自然と学びました。

上門選手はFC琉球、ファジアーノ岡山を経てセレッソへ加入されました。
セレッソの魅力や良さはどう感じられていますか?

上門:移籍する前は、大阪なので『都会で怖い』というイメージもありましたが、いざ加入すると、みんな優しくて、監督も選手とコミュニケーションを取ってくれるので、最初からクラブ全体に好印象をもっていました。サポーターも温かい人が多いですし、サッカー専用スタジアムなので、応援の迫力もすごいです。クラブハウスを含め、環境面も素晴らしいと思います。あと、ユースの選手がトップチームの練習に来ることもあるのですが、みんな技術的にトップチームの選手と遜色がないんです。風間(八宏)さん(セレッソ大阪スポーツクラブ技術委員長)の教えもあると思いますが、そこにもビックリしました。

北野:常に世界を見据えて指導してくれることも、セレッソアカデミーの良さだと思います。どんな状況でも、「常に上を目指せ」と言われてきましたし、満足させてくれなかったですね。

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ゴールも守備も。
マルチタスクをこなしてこそ桜のFW

今回の対談のメインテーマは“ストライカー論”。スピードや背後への抜け出しを特長とする上門と矢形、周囲の選手とも関わりつつ状況を打開していく北野、かつては中盤でプレーし、「パスやアシストが好き」と語る田中。それぞれに強みはあるが、全員に共通していることは、献身的な守備と前線からのハードワークでもチームに貢献しているということ。攻から守、守から攻へ切り替えるスイッチ役としても機能する4選手が抱くストライカー像に迫った。

4選手とも現在はFWでプレーされています。それはいつからでしょうか?

上門:小学生の頃は、最初はCBをやっていました(笑)。当時からキック力があったので、後ろから蹴ってゴールに入ることもありました。FWを始めたのは5年生くらいからです。そこからはサイドも含め、ずっと攻撃的なポジションをやっています。

北野:僕は小学生の頃から基本的にずっと前目のポジションをやっています。スピードもあった方なので、それも生かして点を取っていました。どの年代の指導者からも、自分の特長は「ゴールに向かうプレー」だと言われてきました。点を取る喜びは昔から強く感じていましたね。

矢形:小学生の頃はサイドハーフで、セレッソに入った中学時代からFWになりました。そこからずっとFWだったのですが、21年にマイナビ仙台レディースに移籍して再びサイドハーフをやるようになりました。でもやっぱり、「FWがいいな」と思っていましたね。点を取ることが一番楽しいですし、ゴールの近くにいたい思いは強くなりました。

田中:レディースに上がる前までは、中盤の真ん中をやっていました。FWはレディースに上がってからです。それもあって、点を取ることだけでなく、ゲームを作ることも楽しいです。

FWとして意識しているプレーは何でしょうか?

上門:セレッソに来る前はゴールのことだけを考えてプレーしていましたが、ここに来てから考え方が変わりました。監督の教えもあり、ゴールはもちろん狙いながら、守備からしっかり入ることを意識するようになりました。琉球や岡山では守備が苦手だったのですが、献身性やハードワークはセレッソに来てだいぶ学びました。

田中:私も守備は苦手ですが、『チームのためにやらないといけない』と思って頑張っています。とにかく相手に向かっていくこと、ガムシャラにプレーすることを意識しています。

矢形:チームが苦しい時こそ点を取る。FWにはそれが一番求められていると思っています。その上で、守備のスイッチを入れること、後ろが予測しやすくなるような守備をすることも心掛けています。プレスで相手のミスを誘って得点が決まる場面もあり、そこはレディースの武器にもなっていると思います。

北野:もちろん、守備はセレッソでプレーする上では欠かせないですが、FWの仕事はゴールなので、そこは忘れずプレーしようと思っています。

自身の得意なゴールパターンと、そこにもっていくために工夫していることはありますか?

矢形:背後への抜け出しからゴールを取ることが得意です。ただ、相手のDFにも足が速い選手が多いので、そういう選手とは、試合中に駆け引きをして、一回止まって動き出すなど、工夫しています。

北野:ジョーくんも背後への抜け出しはうまいですよね?

上門:ありがとうございます(笑)。でも、J2はシュートを打てる時間がありますが、J1ではその時間が少ないです。それで昨年は苦しみました。相手の寄せが早い中で、どう点を取るか。そこは常に考えています。ただ、どちらかというと、試合中は考えながらプレーするより、感覚的にプレーすることの方が多いです。あとは、先ほども話したように、セレッソは『いい守備からいい攻撃』というスタイルなので、味方がボールを奪った後は、常にスペースを見るようにしています。最近では、守備に力を使い過ぎると攻撃でシュートを打ち切れないこともあるので、大事なところで決めるためにうまく体力を使うというか、攻撃と守備のバランスも大事にしています。

矢形選手と田中選手は攻撃と守備のバランスを試合中に意識されていますか?

矢形・田中:体力的にいけるところまで走ろうと思ってやっています(笑)。

上門:(守備は)二人の関係性も大事ですよね。

矢形:そうですね。田中選手とはお互いに声をかけ合って、ボールの位置によってどっちがファーストDFとしてプレスに行くか決めています。

上門:僕も颯太と2トップを組む時は、常にアイコンタクトを取っています。攻撃の時も守備の時も、どこに颯太がいるかは常に見ています。試合中は動きが重ならないように、相手がつかまえづらいように、距離感を取り続けることが大事だと思うので。

矢形:そこは私も意識していますね。鳥居塚(伸人)監督も、常に「次のつながり、人とのつながりを大事にしろ」と言っています。自分がパスを受けた後、どこに出すか。ワンタッチも含め、どうしたら剥がせるか。そうした先のことを考えながらプレーしています。もちろん、ゴール前では貪欲に一人で行くことも必要ですが、ゴールの確率を判断した上で、プレーの選択をすることを心掛けています。

北野:僕も一人で何かをするタイプではないので、味方をうまく使うことは大事にしています。シュートコースを塞がれたとしても、パスの判断をもっておけば、選択肢を2つもつことになるので。そういう意味では、アシストもゴールの次にこだわっています。ただ、僕は考え過ぎたら分からなくなるので、感覚的なプレーの方が多いですね(笑)。

田中:私も考えるより、その時、その時で感じたことをプレーに表現しています(笑)。昔は中盤をやっていたのでパスは好きですし、いつも周りに誰かいないかを見ています。自分で行くよりも、パスがうまく通った時の方が気持ちいいですね。

北野:さすが、中盤をやっていた選手ですね(笑)。

田中:相手を見ながら駆け引きをするのは好きですね。ゴール前で崩せたり、イメージ通りにプレー出来たりした時の楽しさはあります。

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「男女でリーグ優勝を」。
強い想いと、その原動力

対談の締めは、“自身にとってのセレッソ大阪と未来”。レディースの二人は、チームとして初めて挑むWEリーグ(11月開幕)に向けた抱負を、男子トップチームの二人は、セレッソで成し遂げたい夢を語ってくれた。そして最後に聞いたのは、自身にとっての原動力。その答えは4選手とも共通していて、“原点”と言えるものだった。

セレッソ大阪は今年で創設30周年を迎えます。もちろん、ここからもクラブは続きますし、特にレディースは今季からWEリーグに参入るので、記念すべき1年でもあります。
そんな今季も含め、今後どういうクラブにしていきたい思いがありますか?

矢形:WEリーグ参入1年目で、色んな人から注目される年になると思うので、この1年でどこまでいけるか楽しみです。チームとしては5位以内を目標に掲げていますが、トップ3に食い込んでいけるように頑張りたいです。多くの人に見てもらって、知ってもらって、セレッソ大阪ヤンマーレディースとして愛される1年にしたいです。

田中:全員で走って、頑張って、勝ち切れるようになって、色んな人に応援されるチームにしたいです。

上門:やっぱり、タイトルを獲りたいですね。セレッソで優勝したいです。レディースも今季からWEリーグに参入するということで、男女ともにリーグ優勝する日が来ればいいと思いますし、そこに自分も貢献したいです。クラブとしては、アカデミーにも素晴らしい選手がたくさんいるので、そういった選手がどんどん出てくれば、より強いチームになると思います。颯太みたいに海外を目指せる選手もたくさんいるので、楽しみです。

北野:僕も優勝したいです。特に、まだクラブが獲ったことがないリーグを獲りたいですね。アカデミー出身選手として活躍し、クラブがタイトルを獲ることが、育てていただいた指導者への恩返しにもなります。ジョーくんも言ったように、レディースと一緒に優勝したいですね。

これからもより高みを目指してサッカーを続けていく中で、プレーの原動力は何でしょうか?

上門:僕は父ですね。父子家庭で育ち、兄、姉、自分と3人を育てていたので、感謝しかありません。プロになる前、琉球からオファーをいただく前は、サッカーを辞めようとしていたのですが、「続けてくれ」と父が言ってくれたので、琉球に加入しました。その言葉がなかったら、今サッカーをやっていません。その恩返しをすることが、自分の一番の原動力です。今でも、うまくいっていない時に電話で元気をもらうことがあります。だから、一番は家族のためですね。

矢形:自分もやっぱり家族ですね。兄の影響でサッカーを始めたのですが、最初、父には反対されていて、でもめげずにやりたいと言って、ここまで来ました。最初は反対していた父も、今では応援してくれています。遠いアウェイでも車で駆けつけてくれて、応援してくれているので、親には勝つ姿を見て喜んでほしいです。辛い時とかも、察してくれて、いつも連絡をくれます。試合前も「頑張れ」という一言だけでも絶対にくれます。感謝していますし、親に恩返しをしたい思いがあります。

田中:私も家族です。遠征などで中学時代からお金もかかる中、何も言わずにサポートしてくれました。夜も、自分が帰るのが遅くなる中でも待ってくれて、一緒にご飯を食べてくれました。高校、大学にもいかせてくれて、サッカーだけではない生活ができているのも親のおかげです。感謝しているので、試合に出て、活躍して、親に楽しんでもらいたい気持ちが一番強いです。

上門:颯太は、「家族」はなしで(笑)。

全員:ハハハ(笑)

北野:もちろん、サッカー選手として大きな舞台でプレーすることもモチベーションですが、やっぱり家族や友達とか、応援してくれる人、これまで関わってくれた人たちのために頑張りたい思いは強いです。そういう人たちのためにも、もっともっと上にいきたい思いはあります。

PROFILE
FW 田中智子
2001年7月16日生まれ、22歳。大阪府八尾市出身。長池つばさFCフュ-チャ-ズ→セレッソ大阪堺ガールズ。2016シーズン途中よりセレッソ大阪ヤンマーレディースに加入。
FW 上門知樹
1997年4月27日生まれ、26歳。沖縄県うるま市出身。与勝中→与勝高→FC琉球→ファジアーノ岡山。2022シーズンよりセレッソ大阪に加入。
FW 矢形海優
1999年12月30日生まれ、23歳。京都府京都市出身。西京極ジュニアSC→セレッソ大阪堺ガールズ→セレッソ大阪堺レディース→マイナビ仙台レディース。今年7月にセレッソ大阪ヤンマーレディースに復帰。
FW 北野颯太
2004年8月13生まれ、19歳。和歌山県和歌山市出身。アルテリーヴォ湯浅→セレッソ大阪U-15→セレッソ大阪U-18。2022年2月、17歳の若さでセレッソ大阪とプロ契約を締結。今年5月にはU-20ワールドカップのメンバーに選ばれ、全3試合に出場した。