スペシャル対談企画第5弾 百濃 実結香 清武 弘嗣 桜の花形。チャンスメイク論

CHAPTER #3 スペシャル対談 05

いまから10年前。
2013年の長居にて

セレッソ大阪でのプレーは今シーズンで10年目。欧州から戻ってきた2017年に二冠達成に貢献し、近年は主将としてチームを引っ張っている清武弘嗣。一方、6期生として中1からセレッソ大阪堺ガールズに入団した百濃実結香も今シーズンで9年目。年齢は一回り以上離れている両者だが、クラブを思う気持ちは誰より強い。清武はパサー、百濃はドリブラーと、プレースタイルに違いこそあるが、互いに攻撃をけん引する存在であることは共通している。今回の対談では、緊張した面持ちの百濃を清武が終始リードする形で推移。初対面とは思えぬほどの盛り上がりを見せ、あっという間に時間は過ぎた。「難しいテーマ」(清武)であるチャンスメイク論。どのような意識で攻撃を作り、チャンスを生み出すべく動いているのか。両者の言葉から読み取って欲しい。(取材日:2023年11月2日)

清武:いま、何歳ですか?

百濃:21歳です。

清武:若い!!(笑)

清武選手がセレッソに来た2010年が、ちょうど今の百濃選手の年齢です。

清武:いいなー、若いって(笑)。今はもう、練習が終わると、めちゃくちゃ疲れる。

百濃:私も練習後は疲れて何もできないです(笑)。

清武:いまは何でもできるでしょ?

百濃:練習でめちゃくちゃ走るので、ヘトヘトです(苦笑)。

百濃選手から見た清武選手は?

清武:歳が離れ過ぎて、分からないでしょ?

百濃:自分が日本代表を見始めた時に活躍されていて、初めて現地で見た日本代表の試合、13年のヤンマースタジアム長居で行われた試合(キリンチャレンジカップ2013、グアテマラ代表戦)を父と見ていました。清武さんも香川選手と出ていました。

清武:ホント?うれしいね。

百濃:父が清武選手を好きで、タオルも買っていました。

清武:ありがとうございます(笑)。

百濃:その後、自分も中1からセレッソに入って、中2の終わりころに清武さんが帰ってきて下さったので、自分はセレッソと言えば清武さんか香川さんのイメージです。

清武:ありがとう(笑)。レディース、みんな若くない?

百濃:若いですね。自分より年下も結構います。

清武:高校生もいるよね?

百濃:いますね。

清武:いまは大学生?

百濃:はい、大学3回生です。

清武:練習しながら、単位、取れるの?

百濃:何とか(笑)。

清武:WEリーグも始まるね。レディース、強いんじゃない?

百濃:3強と言われているチームに食い込んでいきたいので、1年目から頑張ります!

清武:楽しみだね。

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憲剛さんやヤットさんは、
チャンスメイクがすごかった

小学生のころ、日本代表でプレーする清武を父親とヤンマースタジアム長居で観戦していたという百濃。キャリア、年齢は大きな隔たりがある両者だが、サッカーの話になると、一気にその距離は縮まり、率直な意見を交換し合うことで、議論は熱を帯びた。ここでも清武が会話をリード。ドリブルだけではなくパスにも取り組んでいる百濃の現状を引き出しつつ、現在、抱えている悩みも聞いた上で、清武が百濃に与えたアドバイスとは?円熟のマイスターからの言葉は、今季からWEリーグを戦う小柄なドリブラーの心にも響いたはずだ。

ここからはプレーについて伺います。お二人での議題は「チャンスメイク論」です。

清武:ポジションはFW?

百濃:いまはサイドをやっています。

清武:ドリブルで行くタイプでしょ?

百濃:はい。

清武:三笘(薫)君系だ!

百濃:三笘選手のプレーは映像でも見ています。でも、自分にできないプレーを清武さんは簡単にするので、尊敬しています。

清武:俺はドリブルできないもん(笑)。

昔はドリブルで運んでいた印象もあります。

清武:多少はしていましたが、どっちかと言えば、(香川)真司くんのほうがドリブルのイメージは強い。自分はずっとパサーで、ドリブルに自信はないので。

百濃:ホントですか?(笑)。

清武:小学生のころはガンガン自分で抜いていたけど、いまはもう無理(笑)。

サッカーを始めた頃のポジションは?

百濃:私は昔からFWとか攻撃のポジションで、当時からどんどん仕掛けていました。

清武:小学生のころはGKからFWまで全部やりましたよ。中学に入ってFWをして、高校では少しボランチもやりました。ただ、ボランチは守備ができな過ぎて、試合ではすぐ代えられました(苦笑)。

パスにこだわりを持ち始めたのはいつごろですか?

清武:より強く持ち始めたのは、代表に入ってからですね。(中村)憲剛さん、ヤットさん(遠藤保仁)を近くで見るようになって、「パスって綺麗だな」みたいな。ただ、いまもそうですが、自分で(ゴールを)決めないと評価されない。当時の監督、レヴィー(・クルピ監督)からも「数字、結果を残せ」と言われ続けていました。海外でもそうでしたが、決めた選手が目立つ。そういう世界。パスを出すか、決めるかで言えば、決めるタイプでしょ?

百濃:いや、パスを出すタイプですね。ゴールも意識はしているんですけど、清武さんみたいにシュートレンジが広くないので(苦笑)。

清武:全然、広くないよ。

百濃:清武さんのプレー集をYouTubeとかでよく見るんですけど、いろいろなところから打てるし、運ぶドリブルもあって、パスもすごい。相手にとって本当に怖い選手だなといつも思っています。

清武:そういうのはいいところを編集してくれているから(笑)。例えば、GKと1対1になって、隣に味方がいる状況で、自分で行くか、パスを出すかとなると、どっち?

百濃:角度にもよりますが、五分五分ですね。「絶対に自分で」という感覚はないです。

清武:俺は絶対、出す。でも確率が五分だったら、ストライカーは絶対に打つでしょ。

百濃:ストライカーは打ちますね。

お互い、パスを出すほうに喜びを感じる?

清武:僕はそっち系です。憲剛さんやヤットさんは、チャンスメイクがすごかった。ただ、何をもってチャンスメイクと言うのか。スルーパスなのか、パスを出して動いて、を繰り返すことなのか。最後のパスだけをチャンスメイクと捉えるのは、個人的には少し違うと思う。その前には過程があるので。

百濃:確かに。

清武:最後のパスをチャンスメイクと言うのは当たり前ですが、そこに至る前には出して、動いて、3人目とか、遊びのパスが何本かある。1発では通らない。チャンスメイク論って、一番難しい議題だと思いますよ。

そうですね。

清武:「アシスト論」ならアシストに特化した話ができるけど、アシストもアシストの前もチャンスメイク。ただ、Jリーグも縦に速い攻撃が増えている。サッカー界全体の流れが変わってきているから仕方ないとは思いますが、その中で、どれだけサッカーを楽しめているのかな、と思うこともあります。もちろん勝たないといけないので、難しさもありますが。

ボールが入る前に意識していることは何ですか?

清武:自分で何とかしようとは思わないです。受けたパスをワンタッチかツータッチで落として、そこから何とかします。受けてはがす、というプレーではない。(百濃は)はがすタイプでしょ?

百濃:どっちかと言うと、そっちのタイプですね。まずスペースがあるかを見て、その後に味方の位置を見ます。

清武:もちろん、フリーで受けたら前を向きますが、マークに付かれている時は、落として、その後を意識します。ドリブラーは背負っても、自分で前を向いて仕掛けるからすごい。トップチームで言うと、カピ(カピシャーバ)や(新井)晴樹のような。自らスペースを見つけて仕掛ける。(百濃は)外に張ることが多いの?

百濃:最近は中に入る機会が多いです。トリさん(鳥居塚伸人監督)も、次のつながりを大事にしている監督なので、サイドでのドリブルだけではなく、出した後の動き出しや、ボランチやCBがFWに当てた後の3人目の動きとか、そこも求められています。

清武:パサーもしないといけないんだ。

百濃:そうなんです。それがいまの課題です。

清武:でも、周りとどう関わるかは面白いよね。

百濃:はい。学び中です。

清武:ポジションをどう取るかも大事だね。

百濃:サイドバックのタイプによっては、自分が張って、サイドバックが中に入ることもあります。

いまの役割としては、必ずしもサイドで1対1をするだけではないと。

百濃:はい。いまのチームはFWもサイドも自由というか、いろいろなところができる選手が多く、自分がFWの役割をする時もあります。ぐちゃぐちゃってなって(笑)。

清武:一番、面白いよね(笑)。空いているところにポジションを埋めるんでしょ。

百濃:そうです。

清武:めっちゃいいね。みんな気を遣えないと、できないもんね。

百濃:はい。だから(FWもサイドも)両方できないと、という感じです。

攻撃を機能させていくためには個も大事ですが、周りとの連係も大事ですよね。

清武:そうですね。特に俺は人を見てサッカーをするから。自分がやりたいようにやるのではなく、人が動いて、空いたところに入る。嫌なところに入る。あまりにボールに触れなかったら下がりますけど、いまは下がらなくても中盤にはうまい選手がいるから。(作りは)真司くんとかに任せて、前でポジションを取ったらいいかなと、試合を見ながら思っています。

百濃:昨年くらいから、ドリブルだけではなく、パスも考えるようになって、選択肢を増やすように意識しています。ワンツーで入ったり、ドリブルだけではないプレーをいまは頑張っています。

清武:でもドリブルは武器だよ。

百濃:取られてしまうこともあって、悩んで、落ち込んで、ドリブルできなくなることもあります。

清武:いいの、いいの(笑)。取られても仕掛けたらいい。それが武器だから。

百濃:フフフ(笑)。

清武:羨ましいよ。パスとか誰でもできるもん。

百濃:そんなことないです(笑)。

清武:ホント、ホント。パスは練習すれば丁寧にできるから。空間認知とかはまた別(の能力)だと思うし、落とす位置とかタイミングとかは俺も小さいころからやってきたけど、パスは練習すればうまくなる。ドリブルの感覚やスピードは、持って生まれた才能も大きい。ドリブルが武器なら仕掛けていい。判断や位置さえ間違えなければ、取られてもいい。まだ若いし、自分の武器を磨くことを大事にしたらいいと思うよ。

百濃:ありがとうございます。

清武:1年目はガンガン仕掛けたらいいんじゃない?

そのほうが相手も嫌ですよね?

清武:絶対、嫌。練習でも、カピや晴樹と対戦するのも嫌だもん(苦笑)。ドリブルはいい武器だよ。いつからドリブルが武器なの?

百濃:サッカーを始めたころからずっとです。小学生の時から比較的自由にやらせてもらっていました。誰かを使うより「自分で行け」とコーチからも言われていました。男子チームと対戦した時に、男子にドリブルで勝ったらうれしかった。相手チームの監督から「女子に負けるな」と言われて、それで勝ったときもうれしかった。「スピードも自分の武器かな?」と思い始めて、そこからスピードに乗ったドリブルを自分の武器にするようにしています。

清武:ドリブルで生きてきたんだね。

百濃:はい。

清武:小さいころ、父親からよく言われたけど、「最初の選択がパスの選手は、相手からしたら怖くない」と。仕掛けない選手は怖くない。第一選択はドリブルがいいよ。ドリブルと見せかけてパスとか、最強じゃない? 俺もドリブルしよう(笑)。

百濃:フフフ(笑)。

WEリーグでガンガン仕掛ける百濃選手の姿を期待したいです。

清武:相手に「怖いな」と思わせたら勝ちだよ。

百濃:頑張ります!

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セレッソというクラブが
サッカーの楽しさを教えてくれた

対談の締めは、“自身にとってのセレッソ大阪”。「サッカーの楽しさを教えてくれたクラブ」(清武)、「選手としても、人としても育ててくれたクラブ」(百濃)。セレッソ大阪が二人のキャリアに深い影響を与えたことが伝わってくるが、クラブにとっても、両者はかけがえのない存在だ。発信力やサポーター人気も高い背番号13同士。それぞれの持ち場にて、今後も大いなる活躍を期待したい。

今年の12月にクラブ創設30周年を迎えたセレッソですが、清武選手はその内の10シーズンでプレーしています。百濃選手も中1から過ごしています。お二人にとってセレッソとは?

清武:アカデミー出身でもないのに10年も居座ってしまい、申し訳ないというか(苦笑)。

百濃:いえ、ずっと居て下さい!

清武:前にも言ったことがあるのですが、セレッソはサッカーの楽しさを教えてくれたクラブです。サッカーってこんなに楽しいんだ、自由なんだ、ということをレヴィー(・クルピ監督)から教わりました。2010年、11年、12年とサッカーの魅力に取りつかれました。現代サッカーは戦術や規律を重んじるチームも多くなっていますが、あのころはすごく自由でした。自分たちのイマジネーションでサッカーをしていました。セレッソというクラブが自分を育ててくれたし、サッカーの楽しさを教えてくれました。

17年に復帰されたのも、その思いがあったからですね。

清武:そうですね。セレッソというクラブがすごく好きだったので。帰って来たら来たで、時代も変わって、昔のように楽しさだけを追求しても成り立たない時代ですし、選手も時代とともに変化していかないといけない難しさもありますが、いまも純粋にセレッソでサッカーを楽しめています。

百濃選手にとってのセレッソは?

百濃:中学1年からお世話になって、今年で9年目になりますが、ずっとセレッソです。サッカー選手としても育てて下さったし、人としても成長させてくれたクラブです。家族みたいな存在です。

WEリーグに参入した今季の目標はいかがですか?

百濃:初年度から結果を残して優勝できたらカッコいいなと思いますし、今後、上位に定着するためにも1年目の結果はすごく大事。優勝を目指して頑張りたいです。

清武:WEリーグを引っ張っているチームはあると思いますが、そんなの関係ないし、若いチームだからこそ勢いに乗った時は強い。一つでも上の順位を目指して、1年目から頑張って欲しいですね。

百濃:ありがとうございます!

最後に、サッカーを続ける上で、原動力になっていることは何ですか?

百濃:何回かサッカーを辞めようと思ったこともあるのですが、家族の支えや、関わって下さった監督、スタッフ、ファン・サポーターの方々の存在やメッセージが、いつも「頑張らないと」と思わせてくれます。その人たちに対して感謝の気持ちを自分がプレーしている姿で恩返しできたらいいなとずっと思っています。ここまでサッカーを続けることができた一番の原動力は、そうした方々の存在です。

清武:素晴らしいね!120点!応援したくなるわ(笑)。俺は純粋にサッカーが好き。それに尽きます。「ケガをこんなにしてもサッカーをしているのは何でやろう?」「何で手術してまでサッカーをしているんやろう?」「何でこんなキツいリハビリをやっているんやろう?」と思うこともありますが、グラウンドに立てば、「やっぱりサッカー面白いな」「仲間はいいな、仲間とボールを蹴るのは楽しいな」と思います。もちろんその中に、支えてくれている家族や監督、メディカルスタッフやサポーターの存在もありますが、自分を動かす一番の原動力は、サッカーが好きだから。その気持ちがあるから、ここまでサッカーを続けていられるのだと思います。

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レディースから海外へ続々。
次の選手は……

「あの子、めちゃめちゃうまい」と清武も絶賛する林穂之香を筆頭に、宝田沙織、浜野まいかと、ここまで3選手を海外に送り出してきたセレッソ大阪ヤンマーレディース。対談の途中には、“海外移籍”についても話は及んだ。やや及び腰の百濃に対し、自身の経験を元に発破をかけるキャプテンの姿が見られた。

清武:セレッソはレディースもどんどん世界に選手を出して、すごいね!今年活躍したら、そろそろ、次なんじゃない?

百濃:あまり海外は考えたことがありません。まだまだ足りないモノが多過ぎて…。

清武:行ったら案外、できちゃうよ。

百濃:あまり海外志向はなくて…。

清武:俺も海外はむしろ行きたくなかったから。

百濃:そうなんですか!意外です(笑)。海外志向が強いのかと思っていました。

清武:全然。海外のサッカーとか見たことがなかったし。でも当時は毎年、先輩方が海外に移籍して、自然と「次は俺かな?」みたいな感じになって(苦笑)。

百濃:そうなんですか!(笑)。

清武:オファーが来て、「どうしようかな?」と悩んで、最後はノリで行った。

百濃:意外です(笑)。(オファーが来たら)考え過ぎない方がいいんですかね。

清武:パッと決断したらいいと思う。ただ、英語は勉強しておいたほうがいいよ。俺は海外に行った時、文化に触れることができず、それだけは悔いが残っているので。

百濃:なるほど。大学で英語の授業は終わったんですけど、頑張ります(笑)。

PROFILE
清武 弘嗣
1989年11月12日生まれ、34歳。大分県出身。大分トリニータU-15→大分トリニータU-18→大分トリニータ→セレッソ大阪 →FCニュルンベルク(ドイツ)→ハノーファー96(ドイツ)→セビージャFC(スペイン)→セレッソ大阪
百濃 実結香
2002年10月8日生まれ、21歳。京都府出身。桂坂サッカークラブJr.→セレッソ大阪堺アカデミー→セレッソ大阪ヤンマーレディース