営農情報

2013年10月発行「FREY2号」より転載

障害者とともに歩む農業。商品や販売に工夫凝らし地域農業の担い手に成長

「ずっと障害者と関わりをもちたいと思ってきた」という中屋俊美さんは、自らの農地や近隣から借りた農地で障害者とともに農業を営み始め、いまでは地域農業を担う法人に成長。
福祉施設への米の直販、特長ある加工品づくりなどの経営センスは一般企業にひけをとらない。事業として成り立たせ、継続していける仕組みづくりにも着手、障害者の雇用と地域農業の活性化をめざす。

農業生産法人 (有)シーネット坂井

中屋 俊美 様

福井県 あわら市

Profile
中屋俊美氏(81)が代表をつとめる(有)シーネット坂井は、職員7名で農業を営む法人。米(約20ha)を中心に麦、大豆、野菜、柿、イチゴ等の栽培と作業受託で約40haにわたる農地を預かる。米の一部は特別栽培米、6次産業化も積極的に取り組む。

雇用確保のため農業を本格化

農業生産法人(有)シーネット坂井は、障害者福祉施設「Cネットふくいあわら事業所(以下、事業所)」内で取り組んできた農業をより本格的に取り組もうと2001年に立ち上げた法人だ。事業所の母体は福井県下一円で障害者福祉サービス事業を展開する社会福祉法人コミュニティーネットワークふくい。県下に14の直営事業所・施設があり、事業所もそのひとつだ。

農業への取り組みは1991年の開所以来、事業所の代表をつとめ、現在はシーネット坂井の社長でもある中屋俊美さんの発案で始まった。「障害者の療育の一環として、農業と関わることは意味があると思っていました。障害の程度を問わず、関心のある人たちに農業とふれあってもらえれば」と自らの農地を提供し、田植えや稲刈りのたびごとに一緒に作業をするようになった。「近所の女性たちにも手伝ってもらい、収穫したもち米からかきもちをつくることもしました」

中屋さんはやがて、周辺の農家を回っては農地を貸してもらいながら規模拡大していった。より多くの仕事を確保するためだ。事業所では軍手づくりやペットボトルの分別事業、カーテンのランナー製作などを行っている。しかし地方企業の業績不振や、簡易作業の拠点が中国に移転しまうなどの影響を受け、施設に委託される仕事は減少の一途をたどっている。農業との関わりを深めるようになったのはこうした背景がある。

「条件の良い農地を貸してくれるばかりではなく、施設から離れたところ、小さい田んぼなど条件の悪いところであっても借りました。先輩(中屋さん)の苦労はたいへんだったと思います」こう話すのは、シーネット坂井の総務担当として全体を切り盛りする齊藤昭夫さん(69)。やがて高齢化の進む地域農業への貢献が評価されるようになった。法人化した頃には面積も5ha程度になり、認定農業者の資格も取得した。

総務担当として企画から営業まで何でもこなす齊藤昭夫さん。「どこにも負けないという思いで特徴ある商品づくりをしています。おかげさまで喜んでもらっています」と語る。
12年に開設した観光イチゴ農園「農楽里」で、栽培ベッドに培地を入れ込む作業を行うスタッフたち。

加工品も高品質をつくりだす

作物は米、麦、大豆、そば、柿、スイカ、メロン、さらに大根や人参など幅広い。それでも冬は寒さと雪で閉ざされ、屋外での生産はできない。そこで冬の仕事を確保し、経営の安定を図ろうと2008年からかきもちと柿の加工を始めた。柿は同社の自慢の商品のひとつだ。完熟した柿を収穫し、脱渋した「あわせ柿」や「あんぽ柿」として直売所やスーパーに出荷する。「あんぽ柿」は干し柿になる一歩手前のとろりと甘い柿だ。

10月上旬から11月上旬にかけて収穫した柿を保存しておき、屋内の機械乾燥で仕上げる。硫黄などで燻蒸処理するところもあるが、同社では硫黄を使わず、自然がつくりだすおいしさを大事にしている。購入した人からは「こんなに甘い柿は初めて」「いつも食べる柿とまったく違う」と大評判だという。

加工に使われる柿の畑は1.3haに及ぶ。このすべてを障害者たちが収穫するそうだ。「昔は未熟な柿をもいだり、もいだ後にかごの中にドスンと落としてしまったりして、傷ついたこともありました。でも『この色になったら取ろう』とか『取った後はやさしくかごに置こう』と一緒に作業し、いまではすべて任せています」(齊藤さん)。
かきもちは年明の1月からつくり始める。自家製のもち米6トンを使ってついた餅を四角にカットし、1ヶ月半から2ヶ月かけて乾燥させ、最後に揚げる。昔ながらの素朴な味わいが人気で、店頭に並ぶとすぐに売り切れてしまうほどだ。「うちのかきもちは『おもちの味がする』といわれています。この前も『孫に食べさせたい』と関西の人から段ボール一箱分注文が来ましたよ」と齊藤さんはうれしそうに語る。

心構えは一般法人と同じ

同法人の特長は、地域農業の担い手となって障害を持つ人たちとともに農業を営むことだが、実はそれだけではない。販売面でも他にはない創意工夫を凝らしている。
販売を担当する齊藤さんは福祉施設ならではの視点を活かし、主力商品である米の直販ルートを切り開いてきた。そのひとつが大阪、京都、東京の障害者福祉施設だ。福井県産米は特に関西での需要が多く、認知度も高い。ところが外食などで同県産米は他県産米とブレンドして使われることが多い。齊藤さんはそこに目をつけた。

自ら持ち込んだお釜で100%自社産米を目の前で炊いて、試食してもらい、気に入ってくれた施設に米を卸値で渡す。各施設は自分たちと関わりが深い関係先に声をかけて米を販売する。売上が増えれば増えるほど各施設に入る利益も大きくなる。あらゆる障害者施設で仕事が減り、運営が楽ではないことを知る齊藤さんだから編み出した“取次販売”だ。現在、米を卸す福祉施設は12、13カ所で、うち2カ所では自ら精米機を備え、同法人から送ってもらう玄米を精米し、顧客に届けるという米ビジネスを行っている。同法人が年間に出荷する2800俵のうち福祉施設への販売が3割。ほかは外食業者や消費者への直販だ。

2012年からイチゴの栽培を始めたが、市場出荷ではなく、観光農園形式にした。冬が寒く、雪も降る北陸でハウスイチゴの栽培をする農家は少ないだけに商品としての強みは十分にある。しかし手間のかかる出荷調製作業は障害者には難しい。そこで、「完全予約制の観光農園にすればやっていける」と読んだ。2012年は予想より多くの約3500人を集客。「うちは常に他がやっていないスキ間を狙うことを強みにしています」(齊藤さん)

積極的な営業、スキ間を狙った売り方は一般的な企業のやり方そのもの。「福祉施設がやる農業だからという心構えではなく、一般企業と同じ意識でやらなければだめだと思う」と齊藤さん。「そして農業のプロの存在も重要。障害者だけではできない部分をカバーできるし、プロがいれば障害者が働く場所も増えるのです」同法人は生産技術を営農技術を備え持ったプロが担っており、販売は齊藤さんの才覚が活かされている。

事業を継続していくために

ここまで創意工夫を凝らしても、「事業としての農業の継続はなかなか容易ではない」と齊藤さんは言う。どうすれば障害者の雇用を続けられるか。試行錯誤の末、組織全体の再編を行うことにした。2013年10月、障害者福祉事業を行う法人「株式会社農楽里(のらり)」を設立し、シーネット坂井で農業の仕事をしてきた障害者は、農楽里の被雇用者となる予定だ。再編後も仕事の内容は変わらない。農楽里は、「就労継続支援A型事業所※」として認定される見込みで、国や自治体からの給付金を受けられる。そのため今以上に多くの障害者を雇用できるようになる。シーネット坂井はコストが身軽になる分を規模拡大などの経費として使える。結果的に両組織の事業が安定するという。

中屋さんも齊藤さんも農業関係機関のOB。農業事情に明るく、実際に農業にも携わってきただけに、シーネット坂井をここまで率いてこられたのだろう。だがそれだけではできなかったはず。中屋さんは「ずっと障害者と関わりを持ちたいと思ってやってきた。ようやくここまでこれてよかった」と感慨深げに話す。こうした障害者への深い愛情があったからこそ今日までの歩みがあったのだろう。障害を持つ人たちが農業と関わることで障害者の雇用にもつながり、地域農業の維持・活性化にもつながる。事業として成り立つ仕組みを学びたいと同法人には年間50カ所を超える団体、組織が視察で訪れる。農楽里とシーネット坂井の連携によるビジネスモデルが確立できれば、同法人をヒントにして福祉と農業をつなげていく取り組みが全国各地に広まっていくはずだ。

  • 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援する法律。障害者と雇用契約を結び、最低賃金を保障する。認定を受けた事業所は、助成金として国や自治体から給付金を受けることが可能。
イチゴ農園農楽里では大粒の完熟したイチゴを摘み取りしてもらおうと完全予約制にしている。北陸には観光イチゴ園が少ないことをリサーチし、多くの集客を見込めるとにらんでオープンした。ハウス内を雪の重さに耐えられるようハウスは頑丈なつくりになっている。

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