営農情報

2020年1月発行「トンボプラス15号」より転載

〈メーカー探訪〉大正時代から約1世紀。多角的な視点から日本の農業を支え続ける 静岡製機 株式会社

静岡製機(株)は、1914年に創業者の鈴木貞三郎氏が籾を干す敷物、米、麦、肥料を入れる袋に用いられる莚(むしろ)を織る製莚(えん)機をつくったことから始まった。1955年ごろからは莚の役割がビニールに取って代わられ、需要は減少。折しも、高度経済成長が始まり、日本では農家が人手不足に陥り、農業の機械化が求められていた。

そこで同社は、穀物乾燥機の研究開発・製造へと事業を転向。電子技術が発展してからは、穀物の成分分析器や色彩選別機などの様々な農機の開発も手がけるようになった。その後は自社の乾燥機開発技術をベースに多角化を推進。こうして、創業当時からの「日本の農業を支えたい」という想いを現在まで脈々と受け継いできた。同時に、乾燥機の開発で培った技術のノウハウを活かし、業務用のヒーターや冷風機、加湿機など、産業機器市場にも参入。柔軟な発想とチャレンジ精神で、事業の多角化を推進している。

創業者の想いを受け継ぎながら多角経営と社会貢献の両輪で進む

代表取締役社長 鈴木 直二郎 様(写真右)
取締役 管理部長 鳥居 伸好 様(写真左)

静岡県袋井市
静岡製機 株式会社

モノづくりのまち・遠州で人の言葉に耳を傾け新領域にチャレンジ

鈴木氏は「静岡の中でも特にここ遠州地方は、日本を代表するモノづくり企業の創業者を何人も輩出している地域なんです。アイデアを持つ人々がつながれば新しいモノが生まれる。そんな風土です」と話す。実際に同社は人の意見やアイデアに耳を傾けることを大切にしており、協力工場からノウハウを学ぶこともあれば、社員からの改善提案を事業に受け入れる制度もあり、風通しの良さを感じさせる。

そんな同社を言葉で表すと、社長の人柄を象徴するように、とにかく「真面目」で「優しい」社風。それは、鈴木氏のあたたかい眼差しからもうかがえる。「300名そこそこの会社ですから、社員は家族同然。社員の顔を思い浮かべれば、その家族の顔まで目に浮かびます」と目を細める。モノづくりにも、社員への想いにも、向き合う姿勢は常に真摯だ。

昭和43年から稼働している工場では、200種を超える製品を送り出している。小ロット多品目の生産を得意とし、ベルトコンベアではなく台車単位で作業を行う。
工場に隣接する展示場には、歴代の製品が展示されている。写真は製莚機。静岡製機の歴史はここから始まった。

地域に貢献したい。その一心で始まった農機メーカーの挑戦

さらに同社の優しい眼差しは、地域社会にまで広がる。その最たる試みが、子会社が企画運営する農産物直売所〈とれたて食楽部(くらぶ)〉だ。大規模農家が直販や6次産業化で売り上げを伸ばしていた2007年、小規模農家はその潮流にのることができず、販路の確保に苦労していた。ちょうどその頃、倉庫跡地の用途を模索していた同社は、小規模農家の農作物を販売する直売所を運営しようと考えついた。それは、地域の農家を支えたい、という恩返しの気持ちから始まった事業だった。

同社の倉庫跡地で開業した「とれたて食楽部」。
取材中もスタッフから声をかけられ、笑顔で応える鈴木氏。その姿に、社員を想う優しさがにじみ出ている。壁には生産者の名前がズラリ(約800名)。
店内には、地元や周辺市の農家が生産した野菜や加工品、惣菜や花、手づくり小物まで、地産地消にこだわった幅広い商品が並ぶ。

開業当初は、機械メーカーが野菜を販売することを不審がられ、なかなか軌道にのらなかったという。それでも、地域のためにとひたむきに運営を続けるうちに、食の「安心・安全」が叫ばれるようになると、一気に風向きが変わる。

それから客足が伸び、今では毎日地域の人で賑わうようになった。2015年5月には、農家の新鮮な野菜で作った料理を提供するレストランを併設。食事の場としてだけではなく、憩いの場の提供というコンセプトのもと、打ち合わせ、ミーティングの場としてもご利用いただいている。現在は、来店が困難なお客様のために移動マーケットにも取り組み、地産地消や安心・安全だけでなく、人と人とがつながるダイレクトな地域貢献の場になっている。

移動マーケットは、生鮮食品からお菓子、日用品まで、様々なものを積んで巡回。

人に優しくひたむきに。地域から海外まで食の安心・安全を広める

製品を通じた社会貢献にも前向きだ。周辺の市町村には、災害時の備蓄品として保冷庫や暖房機を寄贈している。今年の台風による浸水被害では、茨城県の被災地にヒーターを寄付したという。また、海外にも子会社を持ち、農業技術の普及を目指している。

鈴木氏は、「日本の農業技術は間違いなく優れています。安心・安全な日本の農業体系が海外に貢献できることはまだまだたくさんあるはず」と力を込める。「日本の食卓の安全を守るためには、国産の農作物を大切にしなければなりません。後継者不足や高齢化で、農家を取り巻く環境は年々厳しくなっていますが、農家の皆さんに頑張って農業を続けてもらえるよう、我々ができることは何かを考え続けたい」。どこまでも人に優しくひたむきに、次の100年に向けてその歩みを加速する。

社会のために、モノづくりに意欲を燃やす機械メーカー 

今や穀物乾燥機のリーディングカンパニーとして知られる静岡製機だが、創業当初は、大工であった創業者が開発した木製の製莚機が唯一の製品だった。その後、穀物を乾燥させるための送風機を開発。さらに木製の平面乾燥機から循環型の乾燥機へ、遠赤外線乾燥機へと製品を進化させ、農業の効率化を支えてきた。

現在は、製品の7割が米麦乾燥機、保冷庫の農業機械、3割が冷風機や業務用ヒーターなどの産業機械である。最近ではスマート技術を駆使したり、開発・設計段階から省エネを推進したりと、時代とともに技術の革新を続けている。そんなモノづくり精神を支えているのは、経営理念としても掲げられている、「創意を発揚し社会に進歩と安定を」の願いだ。

その意志を社員に浸透するべく、年に3 回は社内で標語& ポスターコンテストを実施しているとのこと。同社の食堂の壁には、社員やその家族が描いた、品質向上月間の啓発ポスターがズラリと貼られていた。

また、工場の階段の踊り場には、100周年を記念してつくったという大きな記念旗に、社員皆さんの手書きで未来に向けた想いが綴られている。その筆致からは、長い歴史の上にあぐらをかかず、新たなモノづくりへと果敢に突き進む同社のパワーがうかがえた。

静岡製機の本社。人材育成にも注力し、新入社員には営業や製造などの職域を超えた研修を実施している。

■経営理念

創意を発揚し、社会に進歩と安定を

【社員の行動指針】

  1. 視野を世界に限りなく前進
  2. 常に研修、仕事に自信を
  3. 製品は最高に、会社に信用を

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